複数のチーム、モデルサービス、AIアプリケーションが同一の Kubernetes / GPU基盤を共有する環境では、アカウントや権限の管理だけでは、基盤上で稼働するワークロード間のネットワーク通信を十分に制御できません。
例えば、次のような制御が必要になります。
- どのネットワークセグメントからAIワークロードへの接続を許可するのか
- どのネットワークセグメントからの接続を除外するのか
- AIワークロードから、どのネットワークセグメントへの通信を許可するのか
- どの宛先ネットワークへのアクセスを制限するのか
- 同一 Project 内のどのコンテナに Network Policy を適用するのか
AI-Stackは、プラットフォーム上からネットワークポリシーを設定できる Network Policy 管理機能を提供しています。使用者は、受信(Ingress)/ 送信(Egress)トラフィックを個別に制御するとともに、Project内のどのコンテナへポリシーを適用するかを指定できます。
主な設定項目は以下のとおりです。
- 受信ルール:適用ネットワーク / 除外ネットワークを設定
- 送信ルール:適用ネットワーク / 除外ネットワークを設定
- 適用対象:Project 内で Network Policy を適用するコンテナを指定
よりきめ細かなネットワークトラフィック制御により、企業は共有AI基盤上でも、ワークロードごとに明確なセキュリティ境界を構築できます。
Network Policy で制御できること
AI-Stack Network Policy は、主にワークロードが通信できるネットワーク範囲を制御するための機能です。
1. 受信トラフィックの制御
指定したワークロードに対して、どの送信元ネットワークからの通信を対象とするかを設定できます。「適用ネットワーク」と「除外ネットワーク」を組み合わせることで、実際にポリシーの対象となる受信範囲を柔軟に設定できます。
2. 送信トラフィックの制御
ワークロードが外部へ通信する際に、アクセス可能なネットワーク範囲を設定できます。これにより、コンテナから不要な社内ネットワークやその他のリソースへのアクセスを制限できます。
3. コンテナ単位での Policy 適用
Network Policy は、Project 内の特定コンテナを指定して適用できます。同一 Projec t内であっても、各ワークロードの役割や用途に応じて異なるネットワークルールを適用できます。
4. Project 単位のネットワーク分離
「ネットワーク強化分離モード」では、AI-Stack が異なる Project 間のコンテナ通信をシステム側で統一的に制限し、Project をまたぐネットワークセキュリティ境界を構築します。
AI-Stack が提供する2つの Network Policy 管理モード
企業やAIプロジェクトによって、求められるネットワークセキュリティのレベルは異なります。
ワークロードやネットワーク構成に応じて、ユーザーが受信 / 送信ルールを柔軟に設定したいケースがある一方、複数 Project 間を厳格に分離し、個々のユーザーによるセキュリティ境界の変更を許可したくない環境もあります。
そのため、AI-Stack では次の2つの Network Policy 管理モードを提供しています。
- 標準モード
- ネットワーク強化分離モード
それぞれ、「柔軟なアクセス制御」と「強制的なProject間分離」という異なるネットワークガバナンス要件に対応します。
標準モード:ワークロードごとに柔軟なネットワークポリシーを設定
標準モードは、AI Application、モデルサービス、企業ネットワーク構成などに応じて、アクセス可能な範囲を柔軟に設定したい環境に適しています。

ユーザーは AI-Stack 上で Network Policy を作成し、以下の内容を設定できます。
受信ルール
指定したワークロードへ流入するネットワークトラフィックを制御します。設定可能な項目:
- 適用ネットワーク
- 除外ネットワーク
適用 / 除外するネットワークを組み合わせることで、実際の環境に合わせて、どの送信元ネットワークをポリシーの対象とするかを定義できます。
送信ルール
指定したワークロードから外部へ接続する際のネットワーク範囲を制御します。設定可能な項目:
- 適用ネットワーク
- 除外ネットワーク
例えば、あるRAG Applicationが特定の社内ネットワークへのアクセスのみを必要とする場合、その構成に合わせて送信ポリシーを設定することで、不必要なネットワークアクセスを削減できます。
Policy を適用するコンテナを指定
ネットワーク範囲だけでなく、Network Policy を Project 内のどのコンテナへ適用するかも指定できます。そのため、同一 Project 内でも、用途の異なるワークロードごとに別々のネットワークポリシーを適用できます。
例えば:
- Model Server:より厳格な受信ポリシーを適用
- RAG Application:必要な社内ネットワークへの通信のみ許可
- Web Application:別の受信 / 送信ルールを適用
標準モードを利用することで、AIワークロードの役割や実際の業務要件に応じた、きめ細かなネットワークアクセス制御を実現できます。
ネットワーク強化分離モード:Project 間の通信をシステム側で強制的に分離
高いセキュリティが求められる共有AI基盤では、ユーザー自身が Network Policy を設定できるだけでは、Projec t間のセキュリティ境界を常に一定に保つことが難しい場合があります。
そこで AI-Stack では、より厳格な制御を行うための「ネットワーク強化分離モード」を提供しています。
標準モードとは異なり、ネットワーク強化分離モードでは、ユーザーが Network Policy を個別に作成・変更するのではなく、AI-Stack が Project 間のネットワーク分離ポリシーをシステム側で一元管理し、強制的に適用します。
ネットワーク強化分離モードを有効にすると、Project 内のコンテナは、他の Project に属するコンテナとの通信が分離され、異なる Project のワークロード同士が直接アクセスすることを防止します。
例えば、以下のような構成を想定します。
Project A
- vLLM
- RAG Application
- Web Application
Project B
- Model Service
- AI Application
- Development Container
ネットワーク強化分離モードでは、Project 間にネットワークセキュリティ境界が構築されます。
Project A のコンテナ ⇄ Project B のコンテナ
この通信はデフォルトで分離され、Project をまたぐワークロード間で任意に通信が確立されることを防ぎます。
また、この分離ポリシーは AI-Stack がシステム側で一元的に管理し、ユーザーによる変更はできません。これにより、設定ミスやルールの漏れ、運用中の変更などによってセキュリティ境界が意図せず無効化されるリスクを低減できます。

標準モードとネットワーク強化分離モードの違い
両モードの最大の違いは、誰がネットワークポリシーを管理するのか、そしてどのレベルまでセキュリティ境界を強制するのかにあります。
| 項目 | 標準モード | ネットワーク強化分離モード |
| 管理方式 | ユーザー / ユーザーが要件に応じて設定 | システムが一元管理 |
| Network Policy | 個別に設定可能 | ユーザーによる設定不可 |
| 受信ルール | 適用・除外ネットワークを設定可能 | システムが制御 |
| 送信ルール | 適用・除外ネットワークを設定可能 | システムが制御 |
| Policy 適用対象 | Project 内の指定コンテナを選択可能 | システムが統一的に適用 |
| 主な目的 | ワークロード単位の細かなアクセス制御 | Project 間の強制分離 |
| 適した環境 | 柔軟なネットワークルールが必要な環境 | 高セキュリティ、マルチテナント、マルチProject 環境 |
シンプルに整理すると、次のようになります。
標準モード
「指定したコンテナが、どのネットワークと通信できるか」を制御します。
ネットワーク強化分離モード
「異なる Project のコンテナ同士を直接通信させない」ためのセキュリティ境界を構築します。
よくある質問(FAQ)
Q1:Network Policy は Ingress / Egress をどのように制御しますか?
Network Policy で Ingress(受信)と Egress(送信)のルールを個別に設定し、許可または拒否する通信を制御することで、ワークロード間のネットワーク分離を実現します。
Q2. 標準モードとネットワーク強化分離モードの最大の違いは何ですか?
標準モードは設定の柔軟性を重視したモードです。ユーザーが Network Policy を作成し、受信/送信ネットワークや、Policy を適用するコンテナを指定できます。
一方、ネットワーク強化分離モードでは、AI-Stack がネットワーク分離ルールをシステム側で一元管理します。ユーザーによる個別変更はできず、異なる Project 間のコンテナ通信を強制的に分離することを目的としています。
Q3. 標準モードでは、どのような Network Policy を設定できますか?
主に以下の項目を設定できます。
- 受信ルールの適用ネットワーク
- 受信ルールの除外ネットワーク
- 送信ルールの適用ネットワーク
- 送信ルールの除外ネットワーク
- Network Policy を適用する Project 内のコンテナ
Q4. ネットワーク強化分離モードのルールをユーザーが変更することはできますか?
できません。
ネットワーク強化分離モードは、AI-Stack がシステムレベルで一元管理・適用するセキュリティ機能です。一般ユーザーによる設定や変更はできません。
これにより、人為的な設定ミスやルール変更によって、本来維持すべき Project 間のセキュリティ境界が損なわれるリスクを抑制します。
Q5. ネットワーク強化分離モードでは、主に何が制限されますか?
主に、異なる Project 間のコンテナ通信が制限されます。
ネットワーク強化分離モードを有効にすると、各 Project のワークロードと他 Project のワークロードとの間にネットワーク分離が適用されます。これにより、Project をまたぐ不正アクセスやラテラルムーブメントのリスクを低減できます。
Q6. どのような環境にネットワーク強化分離モードが適していますか?
特に次のような環境に適しています。
- 複数部門で同一の GPU Cluster を共有する環境
- 複数顧客でAI基盤を共有する環境
- Project ごとに異なる機密データを取り扱う環境
- マルチテナント(Multi-Tenant)環境
- Project 間に強制的なセキュリティ境界を構築したい環境
- ネットワーク分離ポリシーを個々のユーザーに変更させたくない環境
Q7:インストール後にネットワーク強化分離モードへ切り替えることはできますか?
できません。
ネットワーク強化分離モードは、インストール時に選択する一度限りの設定です。システムのデプロイ完了後にモードを変更することはできません。モードを切り替える場合は、AI-Stack システム全体を再インストールする必要があります。
まとめ
企業のAI基盤は、単一モデル・単一チームによる利用から、複数モデル、複数アプリケーション、複数Project が同一の Kubernetes/GPUリソースを共有する環境へと移行しています。このような環境では、ネットワークセキュリティも単一レイヤーのアクセス制御だけでは十分ではありません。
AI-Stackでは、そのために2種類の Network Policy 管理モードを提供しています。
標準モードでは、ワークロードの要件に応じて、受信/送信トラフィックの適用ネットワーク・除外ネットワーク、および Policy を適用するコンテナを指定でき、柔軟かつきめ細かなネットワークアクセス制御を実現します。
ネットワーク強化分離モードでは、AI-Stack がネットワークポリシーをシステム側で一元管理し、ユーザーによる変更を許可せず、異なる Project 間のコンテナ通信を強制的に分離します。これにより、より一貫した Project 単位のセキュリティ境界を構築できます。
AI-Stack は、「ワークロード単位の柔軟なアクセス制御」と「Project 単位の強制的なネットワーク分離」という2つのアプローチにより、共有 Kubernetes/GPU基盤の利便性を維持しながら、企業のセキュリティ要件に応じたネットワークガバナンスを実現します。
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