以下は「ハードウェア → モデル → アプリケーション→ 特許 → 演算基盤(EFLOPS 解説) → コスト → 課題 → 総評」の順で整理しています。


0│背景──キャピトルヒルで鳴らされた警鐘

4月下旬、NVIDIAのCEOジェンスン・フアン氏は米国議会で記者団に対し、「中国はすぐ後ろに迫っており、その差は非常に小さい」と発言。過度な輸出規制はむしろ米国企業の競争力を損なうと警告を発しました。(出典:Business Insider


1│ハードウェア競争──自社製チップ+ラックスケール・クラスター

システム規模/ピーク BF16キーメッセージ含意
Huawei CloudMatrix 384384 × Ascend 910C → 300 PFLOPS(NVL72を67%上回る)光インターコネクトで 16 ラックを「超ノード」化国産上位GPUの不足をシステム規模で補完 金融時報
Baidu Kunlun P800 クラスター30,000基P800DeepSeek 級(100B〜1000B パラメータ)のモデル訓練に対応、銀行などでも稼働中中国製SoCを用いたハイパースケール実装の代表例 Reuters

単体チップの性能では依然として H100 や GB200 に劣るものの、中国はすでに「システムレベルの実効演算力」において、米国の最上位ソリューションと互角の勝負に挑んでいる。


2│モデル競争──公開ベンチを席巻

モデルパラメータ直近スコア
DeepSeek Janus‑Pro‑7B7BGenEval 画像生成スコア 0.80(DALL‑E 3 の 0.67 を上回る) JanusAI
Alibaba Qwen 2.5 Omni3〜72B シリーズ4月上旬、Hugging Face の OSS ランキングで首位を獲得 Hugging Face

小型モデルながら、高精度なデータ整備とアルゴリズム最適化により、同規模の米国製モデルを打ち負かすケースが目立ってきています。


3│エコシステム・フライホイール──億ユーザーが回すデータ循環

2025年1月の世界AIアプリMAU(月間アクティブユーザー)ランキングでは、Doubao(ByteDance)が7,861万、DeepSeekが3,370万を記録し、いずれもトップ5入り。

中国勢は圧倒的なユーザーベースを背景に、対話データの蓄積とプラグイン経済圏の拡大を急速に進めています。

Backlinko南華早報


4│特許と R&D──「量は質に転化する」

WIPO(世界知的所有権機関)によると、2014年〜2023年に中国が出願した生成AI関連の特許ファミリーは38,000件にのぼり、これは米国の6倍に相当します。WIPO


潤沢な国家補助金により、研究論文から製品化までのサイクルが劇的に短縮されており、イノベーションの量的蓄積が質の飛躍へとつながっています。


5│演算基盤──国家目標 300 EFLOPS へ

中国政府は、2025年までに全国の総演算能力を300 EFLOPSに引き上げる目標を掲げており、これは2023年時点の197 EFLOPSから約1.5倍の増強計画となっています。english.www.gov.cn

  • EFLOPS とは?

FLOPS(Floating Point Operations Per Second)は「毎秒の浮動小数点演算数」を意味します。接頭辞 Exa(エクサ)は10<sup>18</sup>を表し、1 EFLOPS = 1京(10の18乗)回/秒の演算能力に相当。

参考までに、現在世界最速のスーパーコンピュータである米国のFrontierが約1.1 EFLOPS。つまり、300 EFLOPSとは Frontier 約300台分の同時稼働に相当し、大規模生成AIモデルの“演算発電所”と言える規模です。。english.www.gov.cn


6│コスト効率──DeepSeek V3 が示した 560 万ドル衝撃

DeepSeek V3(671BパラメータのMoEモデル)は、H800 GPUを2,048枚、57日間稼働させ、合計約278万GPU時間、推定5.6百万ドルで訓練されたと報告されました。Axios

これは、従来「数億〜十億ドル」とも言われていた超大規模モデルのトレーニング費用に対し、コスト構造の常識を覆すインパクトを与えています。もっとも、この試算にはR&D費用やデータ前処理工程が含まれていない可能性も指摘されており、実際のコストラインについては今後の検証が必要です。


7│未解決の課題

領域主なボトルネック
先端プロセスAscend 910C は 7 nm 止まりで、4nm世代の Blackwell に比べてエネルギー効率で劣る
ソフトウェアスタックMindSpore/CANN などの中国製スタックは、CUDA エコシステムに比べ成熟度が低く、移植コストが高い
トップ人材最先端のAI研究者は依然として米国BigTechに集中しており、今後の人材流動性は不透明

8│総評

  1. システム級のスタッキングと光インターコネクトによって、輸出規制下でも実用的な演算力を確保。
  2. オープンソース戦略により、ベンチマーク性能とユーザー浸透率の両立を実現。
  3. 300 EFLOPS 規模のインフラと資本投入が、継続的な拡張を後押し。

結論:米中 AI 競争は「世代差」から「肉薄戦」に突入。

今後の勝敗を左右するのは、サブ4nmプロセス製造・エネルギー効率最適化と、輸出規制の行方。企業や投資家は、二極化するエコシステムを前提としたリスク分散と資源統合が不可避な時代に突入しています。