航空宇宙分野の強みとAI計算基盤を融合し、ドローン研究開発、教育改革、産学共創を加速

背景

ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、従来の戦争のあり方は大きく変化し、ドローンは各国が競争力強化を進める重要な戦略産業となりました。台湾の行政院は、2025年から6年間で442億台湾ドルを投じ、「ドローン国家チーム」を構築する方針を発表しています。

台湾の国立虎尾科技大学は、航空宇宙分野で長年培ってきた技術基盤を生かし、2022年から教育部のプロジェクトを実施しています。同大学は「ドローン先進製造・検査実験室」を設立し、20年以上にわたりドローン分野の研究開発に取り組んできました。さらに、「アジアドローンAIイノベーション応用研究開発センター」を中心となって運営し、サンダータイガーをはじめとする主要企業と共同研究を進めています。その成果の一つが、可変翼構造を採用した台湾製の「トランスフォーマー・ドローン」です。

一方、「インテリジェント・スウォーム飛行」や「リアルタイム自律航行」といった先端プロジェクトでは、大規模な仮想環境の生成に加え、4K映像やLiDAR点群など、膨大なセンサーデータを処理する必要があります。そのため、極めて高いAI計算能力が求められます。従来の「設計、製造、試験飛行」という実機中心の開発サイクルでは、試験に失敗すると設計段階からやり直す必要があり、開発期間が長く、コストも高額になります。

そこで同大学は、統合型の「AI計算クラウドプラットフォーム」の構築を計画しました。デジタルツイン技術を活用し、開発と検証にかかる時間を大幅に短縮することで、研究開発力を完成させる最後の重要な基盤と位置付けています。また、AI計算リソースを学内の教職員と学生へ広く開放し、教育のあり方を変えるとともに、雲林・嘉義・台南地域における産業のスマート化を後押しすることも目指しています

導入前の課題 

  • GPUリソースの分散と利用の偏り  各学科や研究室が個別にGPUを購入していたため、利用の多い研究室ではリソースが不足する一方、利用頻度の低い部門ではGPUが使用されないまま残る状況が発生していました。学部や学科をまたいだ共有の仕組みもなく、設備投資を十分に活用できていませんでした。
  • 環境構築に時間がかかり、運用の負担が大きい AIモデルごとに、利用するフレームワークやCUDAのバージョンが異なります。そのため、教員や学生はAI開発を始める前に、数日から数週間をかけて環境を構築しなければなりませんでした。環境の保守も教員や大学院生に依存しており、安定性や情報セキュリティの確保が難しい状況でした。
  • 授業と研究プロジェクトに必要な柔軟性が不足 数十人の学生に対し、同じ仕様の計算環境を同時に提供することが困難でした。高性能なリソースは重要プロジェクトへ優先的に割り当てられるため、一般の教職員や学生は、利用できるGPUがない、または長時間待たなければならないという問題に直面していました。
  • 高度なAIモデルを処理できる性能が不足 従来のワークステーションでは、4K映像やLiDAR点群などの大規模データを使った学習を処理できませんでした。また、NVIDIA Omniverseをはじめとする、低遅延が求められるデジタルツイン処理にも対応できないという課題がありました。

解決策:AI-Stackインフラ管理ソフトウェアの導入

国立虎尾科技大学の情報処理センターはAI-Stackを導入し、GPU、CPU、メモリーなどの基盤リソースを仮想化し、一元管理できる環境を構築しました。リソースの割り当て、コンテナ環境、ユーザー権限、システム運用を一つの基盤で管理することで、AI計算リソースを効率的に運用するための統合管理体制を実現しています。

導入前の課題 AI-Stackによる解決策 
リソースの分散:各学科が個別にGPUを購入し、利用の多い研究室では不足する一方、利用の少ない部門では設備が使われていないGPUを集中管理するリソースプールと、グループごとのクォータ管理を導入。学科やプロジェクトの需要に応じて柔軟に割り当て
環境構築に時間がかかる:ドライバーやCUDAのバージョン互換性への対応に数日から数週間必要NGCで最適化されたTensorFlow、PyTorch、Caffe、TensorRTなどの環境をワンクリックで展開し、約1分で構築
授業運営の柔軟性が低い:数十人の学生に同じ環境を同時に提供できない授業用コンテナを一括作成し、授業終了後に自動回収。標準化された授業環境を提供
計算性能が不足:4K映像、LiDAR点群、デジタルツインなどの高帯域処理に対応できない高性能GPUを統合し、複数GPUの集約にも対応。NVIDIA Omniverseなどの低遅延処理を支援 

3.1 リソースオーケストレーション

  • GPU分割技術により、1枚のGPUを複数のユーザーや複数のタスクで共有できます。開発、検証、推論に適しており、ハードウェアの利用率を高め、設備導入のハードルを下げます。
  • 複数GPUの集約と、複数ノードにまたがる計算リソースでの計算処理が可能です。大規模言語モデルのファインチューニングや高性能な学習処理を実行できます。 
  • 動的クォータ管理により、需要に応じてリソースを柔軟に割り当て、使用されていないリソースを自動的に回収できます。

3.2 コンテナ環境管理

  • PyTorch、JupyterHub、Hugging Face、Ollamaなどのオープンソースエコシステムに対応しています。Web画面上で選択するだけで、対応するCUDAバージョンの環境を1分で展開できます。AI向けオープンソースコンテナをすぐに導入でき、RAGシステムの開発を加速します。 
  • 独自コンテナイメージのアップロードにも対応しており、NVIDIA OmniverseやLiDAR点群処理など、ドローン開発に必要な専用環境を簡単に複製できます。

3.3 ユーザー権限管理 

  • 学内のLDAPまたはActive Directoryと連携し、教職員や学生は複数のパスワードを管理する必要がありません。学内アカウントでそのままログインでき、シングルサインオン(SSO)を実現します。 
  • 学科やプロジェクトごとに、グループ単位のクォータと承認プロセスを設定できます。 
  • 計算リソースを分離することで、産学共同研究で扱うデータの外部流出を防ぎます。 

3.4 システム運用 

  • 授業用コンテナを一括作成し、授業終了後、または一定時間利用されなかった場合に自動的に回収します。これにより、リソースが長期間占有されることを防ぎます。 
  • ダッシュボードから、サーバーとGPUの利用率、温度、稼働状態をリアルタイムで監視できます。
  • アカウントやプロジェクトごとの利用履歴を記録し、大学間の共同研究、政府プロジェクト、産学連携における費用配分や成果報告の根拠として活用できます。 

導入効果

  • 管理効率の向上:情報処理センターの役割は、問題発生後に対応する「受動的な保守」から、リソースとシステムを事前に把握する「能動的な管理」へと変わりました。単一の管理画面から学内全体の計算リソースを管理できるようになり、保守コストを50%以上削減しました。
  • リソース稼働率の最大化GPU分割技術により、従来は使用されていなかった余剰リソースを、複数の学生による軽量なテストへ再配分できるようになりました。その結果、GPU設備全体の投資対効果が大幅に向上しました。
  • 利用体験の大幅な改善従来は、学期末プロジェクトの環境準備に数日を要していました。現在は数分で必要な環境を利用できるようになり、プロジェクトの開発期間を大幅に短縮しています。
  • 教育と人材育成の高度化:AI技術を航空宇宙、電気工学、スマート製造などの学科教育へ深く取り入れることで、実践力を備えた高度な分野横断型人材を育成しています。卒業後すぐに現場で活躍できる人材として、産業界からも高い評価を受けています。

今後の展望:多様なAI活用と地域の産学連携を支援 

  • 分野横断型人材の育成:「ドローン分野横断型教育プログラム」を開設し、AIシステムモデリング、インテリジェント自律飛行、スマート製造などの科目を提供します。プログラミング経験のない教職員や学生でも、ワンクリックで標準化された開発環境を利用できるようにします。
  • キャンパスAIアシスタントの実用化:代表的な取り組みの一つが、「OriStork微積分学習アシスタント」です。このAIアシスタントは、答えを直接示すのではなく、ソクラテス式の質問を通じて学生自身の思考を促します。また、「スマートキャンパスAI事務アシスタント」では、法令、履修登録、出張規定などをデジタル化して大規模言語モデルへ取り込みます。従来は職員が15~20分かけて照合していた情報を、5~10秒以内に特定し、要約できるようになります。
  •  オンプレミス導入と情報セキュリティの確保:すべてのモデル推論を学内のサーバーで実行し、機密データを学外へ送信しません。情報セキュリティとソブリンAIを確保するとともに、海外の大手テクノロジー企業へ高額な商用API利用料を支払う必要もなくなります。
  • 地域産業への波及:AI計算クラウドプラットフォームは、今後もDell Technologiesと連携しながらリソースを拡張していく予定です。将来的には、雲林・嘉義・台南地域の産業集積を支える地域レベルのAI計算センターとなることを目指しています。この取り組みによって、台湾中部の精密機械産業と航空宇宙産業のスマート化を後押しします。

お客様の声 

「AI-Stackは、国立虎尾科技大学にとって、研究と教育の可能性を価値へと変える計算エンジンです。複雑な仕組みを分かりやすくし、分散していたリソースを一つにまとめることで、分野横断型のAI人材育成と先端的な学術研究のイノベーションを大きく加速しています。」